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#386 02/09/03

ジェレミー・リフキン著『水素エコノミー』

数年前にMHKが水素について、まるで明日から各家庭で水素が電気に代わって使われるようになるという印象を聴視者に与えかねない番組を放映した事があった。「老生」もそういった視聴者の一人であった。しかし、「老生」は少し

早すぎるのではないか、と思ってはいた。

『短気同士の日伊決戦』と題した拙文#274は、実はアメリカの水素発生装置メーカーのイタリア系アメリカ人との対決であった。何十時間も費やして、破談のために旅をしたという「老生」の失敗談であった。

普通は、こういった失敗は無駄であり、無駄な経費を使った人物は、無能というレッテルを貼られる。しかし、「老生」はこれを全くの失敗とは考えないのである。常に失敗から勉強する姿勢さえ持っていれば、失敗ではないのである。短期的に考えれば、確かに失敗である。しかし、長期的に考えればむしろ大きな収穫とさえ考えられる。何故か?それは、このとき、水素ビジネスは日本ではまだ時期尚早という事実を学んだことである。

これは「老生」の負け惜しみでは決してない。「有難い学習」であったと心から思うのが「老生」の基本スタンスである。『失敗から学ぶ』というのはこういうことなのである。実際、この喧嘩別れをした相手といえども、機が熟して再度コンタクトすれば、「老生」の提案が実現性さえあれば、相手は必ず心を開く筈である。心を閉ざす相手なら、相手にする価値はない。

ところで、「老生」が傾倒する『わが師』とさえ思うかのジェレミー・リフキンが新著を出版した。書名は日本語に翻訳すれば『水素エコノミー』であろうか?

原書がまさにその通りで、"The Hydrogen Economy," なのである。同書の中で著者は水素に係わる近未来の我々の生活を描いている。NHKの番組は少々フライイングの気味があったが、この著書はフライイングではあるまい。

筆者も「水素信者」のひとりであるがゆえに、この書物は真に興味深く読んだ。まさにリフキンさま様さまである。かりにこれを『リフキン教』と呼ぼう。筆者は日本における「リフキン教」信者第一号ではないにせよ、信者の筆頭の地位は確かではないかと思っている。

同書177及び178ページで著者は以下のように言う:

『水からとりだす水素で、文明が必要とするエネルギーのすべてをまかなう未来を、ジュール・ベルヌが初めて示唆してから百年余、ロイヤル・ダッチ・シェル・グループの会長ワッツ氏は、国連開発計画が後援するフォーラムで、エネルギーの将来について講演した。それはニューヨークの世界貿易センターへのテロ攻撃からわずかに三週間後のことであった』

『テロ現場から有毒ガスのにおいが漂うマンハッタンで、ワッツはエネルギーの将来について語ったのである。シェルが「炭化水素時代」の終焉にむけて準備を進めていることを聴衆に語ったのである。工業化の原動力であった偉大なる化石燃料、石炭、石油、天然ガスは、この21世紀には水素を基盤とする全く新しいエネルギーに道を譲ると語ったのである』

『しかも、シェルはすでに10億ドルを投じて、再生可能資源による経済への移行を進めているという、ジュール・ベルヌが思い描いた未来の水素社会は、今や先進工業国でも第三世界でも、熱い視線を浴びている、と語ったのである』

『世界の主要なエネルギー企業や自動車産業、公益企業の役員室で、そして政策立案者のあいだで、また、次第に多くなる非政府組織でも、いまや活発な議論がなされている』

『水素は宇宙でもっとも豊富な元素で、宇宙の質量の75%、構成分子数の90%を占める。動力源としてうまく活用すれば、人類は無限のエネルギー源を入手したも同然なのである。薪が石炭に変わり、石炭が石油に変わるという変化が、すでに過去一世紀のうちに起きていた。すでに「脱炭化水素」は始まっているのである』

結論から言うと、NHKのテレビ番組は少し早とちりであるが、あの番組で報道されたような時代がくることは間違いない。メデイアの宿命として、人に遅れて報道するよりは、早とちりでも遅れて報道するよりはまだ良いということになるのであろう。


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