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#216 08/12/00

ノブレス・オブリージュ

99年10月6日付け拙文124で触れたように、『難民を助ける会』というNGOがあり、主として、戦争終了後の戦場に残された対人地雷の処理などの困難な仕事に従事している。カンボデイア、モザンビーク、ユーゴスラビアを含む多くの国でこの作業に従事している。

これらのNGOは基本的には個人や企業からの献金により多くの事業を営んでいる。地雷除去作業には膨大な資金が必要である。必要な資金額は地域の各種の条件によって異なることは当然である。時には、元々の地雷コストの10倍も掛かるし、場合によっては100倍も掛かる。これは金額だけの計算である。しかし、現実にはこれら作業には金には変えられない犠牲をともなうのは避けられない。

読者諸賢はご記憶であろうか?第18回冬季オリンピック開会式の際に、左手に聖火を掲げて、最終走者として走ってきたクリス・ムーン氏を。「老生」にはあの義足のムーン氏の姿は忘れられない。彼は右手で聖火を握ることは出来なかったのである。何故か?彼には右手がないのである。モザンビークでの地雷除去作業中に誤って右手と右足を失ったからである。同氏は英国のNGOヘイロー・トラストに属している。そして「難民を助ける会」は、このヘイロー・トラストと協力関係にある。

今年の11月の終わり頃、このクリス・ムーン氏が来日した。拙文52号(昨年2月4日付)で触れた「難民を助ける会」の副会長である吹浦氏が、このクリス・ムーン氏に会わないかと「老生」を誘って下さった。あのクリスに会えるチャンスは滅多にない。魅力的なお誘いではあったが、残念ながら、ちょうどその時期には「老生」には重要な社用出張があったのである。

ヘイロー・トラストや「難民を助ける会」のようなNGOはボランテイアで成り立っている。決して金儲け目的の組織ではない。しかし、活動を行うには資金が必要なことは言うまでもない。ではその資金はどこからくるのか?基本的には献金である。豊かな人々からは大きな金額、豊かでない人々からは、いわゆる貧者の一灯である。金額の問題ではなく、困っている人々に対して救いの手を差し出すという『心』の問題である。

さて、「老生」が経営する会社は、運に恵まれて今年もささやかながら利益を出した。そこで「老生」は献金を考えた。問題はどこに対してかである。日本赤十字社にか?今年3月30日付け拙文167及び同じく8月31日付196号に記した日本赤十字社とのやりとりを考えると、『冗談じゃねえぜ!』である。

それではどこに?という訳で急いで調べた。結論はすぐに出た。寄付を行う相手先は「難民を救う会」であるというのがその結論であった。大した金額ではない。非課税で行える寄付金の上限を計算するに当たり、計算式の出発点は会社の資本金の額である。資本金額の少ない「老生」の会社では非課税上限額が低いのである。資本金の大きな会社なら相当大きな金額でも非課税になるが、この国の会社(そして個人も)は、大きければ大きいほどケチになるのが普通である。なにしろ、この国には『ノブレス・オブリージュ』の精神がもともとないのである。

伝統とは奇妙なものである。どのような伝統にせよ、それを変えるのは大層難しい。そこが伝統の伝統たるところではあろうが・・・特に、悪しき伝統ほど生命力が強い。反対に、良き伝統を作り上げるには、長い、長い時間が掛かる。

日本語で『ノブレス・オブリージュ』を定義するのは至難の業である。なにしろ、前述したように、そういった精神がハナからないのだから。しかし「老生」に言わせるなら、なにもこれは「ノブレス(身分が高い人々)」に限ったことではないはずである。すなわち身分の高低に関わらず、本来が、「老生」を含めた『そこらに転がっている庶民にも必要な姿勢』と定義したい「老生」である。

念のため、手持ちの研究社の新英和大辞典(ISBN4-7674-1025-8 C0582)を参照した。すると、「高い身分または地位には勇気、仁慈、高潔、寛大などの徳を備えねばならない」とある。しつこくなるが、これはヒトなる種がアフリカのどこかで、木から降りて直立歩行し、ホモ・エレクタスなど難しい名前を経由して、最後にたどり着いたホモ・サピエンス・サピエンスに求められる資質なのである。

そういった資質は当然顔に現れる。そして、最近の国会中継などで見かける政治家の中には、とてもホモサピエンス・サピエンスと同種とは見えない人々も散見するのは残念至極である。


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