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#108 19/08/99

女房を最も効率的に減量させるノウハウ

 1935年生まれの「老人」は自らが銃を取って戦争に参加した経験はない。しかし、他国の内戦等に非当事者として、巻き込まれた経験は多々ある。今日は、その中の一つを紹介しよう。

 1978年6月のある日、「老人」は南イエーメンの首都アデンに到着した。「老人」が勤務していた会社が製造し、南イエーメン政府に販売した漁船の試験操業が目的であった。船長、機関長、漁労長を日本から引き連れてであった。

普通、漁船は夜に操業することが多い。

 ある夜、計画の通り、日本人の船長を中心にしたグループと現地人クルーを乗せて、その試験操業に出航した。現地を熟知したある営業マンと「老人」は陸に残った。一応計画が順調に進み、船が出航したので、「老人」と営業マンは祝杯をあげて、したたかに酔っ払ってベッドに入った。

 恐らく朝の3時頃、尿意を催した「老人」は目が覚めた。すると花火の音が聞こえた。半覚醒の中ながら、アラブ諸国の一つのイエーメンでの花火は、何となく異常を感じた。そこで通常ならベッドサイドのランプを点けて、眼鏡を掛けてトイレにいくにも拘わらず、ランプを点けずにトイレに行った。排泄感を楽しみつつ放尿中、突然近くで連続した轟音がとどろいた。飛びあがりつつも放尿は続いた。自動車と同様に、尿も急には止まらぬものらしい、と冷静に観察していた。

 完了後、急ぎベッドに戻り、先ず眼鏡を掛けた。何故か電気スタンドは点けなかった。急いで窓際に近寄ってわずかにカーテンを開けて、外を覗いた。何と、眼下およそ10メートルのところから、ロケット砲が大統領官邸の方角に向かって発射されているのだ。また、正規軍服の兵隊と農民のスタイルの人々を満載したトラックが続々とホテルの前の建物に着き、そこで一人ずつライフルを受け取り、再びトラックに乗って、大統領官邸の方角に運ばれている。ホテルから官邸までの距離は約300メートル。

 「老人」は営業マンの部屋に走った。事の次第を話すと、それは演習ですよと言って相手にされない。そこで、力づくで引きずるように彼を己の部屋に連れていった。「老人」と営業マンは、およそ1メートル離れて、それぞれカーテンの隙間から外を覗いた。

 その瞬間である、一発の銃弾が頭の高さで二人の丁度真中に飛び込んできたのは。営業マンは関西出身者であった。「アー、ホンマや!」とだけ叫んで、彼は「老人」の部屋から飛び出して行った。政治的背景も地理も知らない「老人」が考えたのは、ともかく大統領官邸の方へ向かう側の流れさえストップしなければ安全だという事で、武器庫前の番兵の態度を観察することにした。番兵が慌てた時は危険であるという訳だ。そして、そのまま朝まで観察した。

 朝になると、ジェット戦闘機が、ホテルの屋根すれすれに、官邸の方角に向かって急降下してロケット弾を打ちこむ。ともかく、大統領側が不利なのは明白。ベッドに寝転がって番兵を見張る。腹は減るが見張りは続ける必要があるからだ。ふと思い付いて、部屋に打ちこまれた銃弾とその弾道が気になった。一番外側がガラス窓、その内側にカーテン、窓とカーテンの間の距離は約20センチ。ガラス窓の穴とカーテンの穴を結ぶと、およその角度が判る。角度はおよそ30度。その方向には建物も何もない。従って、己が狙い打ちされたのではなく、単なる流れ弾と判明。安心。

 アラブ諸国では、ホテルのロビー正面に国家元首の写真が飾られるのが普通である。その写真がクーデター開始3日目に変わった。そこで事情の判らぬ「老人」にさえもクーデターが完了した事が判った次第。

 さて、本文の主題である。およそ10日後、日本に帰国した。当時はまだ若かった老妻が伝えるには、日本のマスコミはただ「アデンで市街戦」と伝えるだけで、それ以上の細部は全く不明であった由。そこで「老人」の安否を気遣う妻は、食えず眠れずの状態がおよそ1週間続いたとの事。その結果体重がおよそ10キロ減ったとの事。

 当時少々太目の妻は、色々と怪しげなダイエット商品に手を出していたが、当然ながら効果なし。それが、亭主のアデン出張で簡単に10キロ減量ができたわけである。

 やや太目の女性達よ、減量したいなら、亭主をクーデターや内戦の発生し易い国に出張させる事です。これは間違いなく減量できます。「老人」が保証します。

 最後に一つ事実を説明すると。アデンの町は古い噴火山の噴火口にできた町である。大統領官邸は町の一番外側で、老人の泊まったホテルも殆ど町外れ。

町自体は大統領官邸の反対側。戦闘自体は、一番外側と二番目の外側との間で発生したもので、街中は全く無関係。従って、正確には、これを市街戦と呼ぶのは誤りである。

 メデイアの発表する事柄は往々にしてこのような不正確性を伴う。「老人」がアデンでおこなったことは、言わば「高見の見物」であった。また、試験操業のために海に出た連中には、陸から無線電話で連絡が入って、この連中は海から戦闘を見物していた事になる。全てメデタシ、メデタシであった。

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